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最高裁判所第一小法廷 平成2年(行ニ)42号 決定

申立人

井上邦康

森山立吉

右両名代理人弁護士

竹中一郎

主文

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

本件忌避申立ての要旨は、申立人らは、最高裁判所第二小法廷に係属中の平成二年(行ツ)第一九二号最高裁判所規則取消請求事件において、最高裁判所が平成元年一二月二八日に公布した「地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則及び家庭裁判所出張所設置規則の一部を改正する規則(平成元年最高裁判所規則第五号。以下「本件改正規則」という。)」のうち福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の各甘木支部を廃止する旨の部分の取消を求めているところ、第二小法廷所属の裁判官草場良八、同藤島昭及び同香川保一は、本件改正規則を審議した裁判官会議に参加しており、本件改正規則の制定に関与した当事者であるから、右各裁判官は民訴法三七条一項所定の「裁判官ニ付裁判ノ公正ヲ妨クヘキ事情アルトキ」に該当するので、右各裁判官の忌避を申し立てる、というものである。

しかしながら、最高裁判所規則の制定をめぐる訴訟において、同規則の制定に関する裁判官会議に参加したということを理由に、同会議に参加した最高裁判所の裁判官について民訴法三七条一項に基づき忌避の申立てをすることはできないと解するのが相当である。

すなわち、最高裁判所は、憲法七七条一項において、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有すると規定されているところ、地方裁判所及び家庭裁判所の各支部の設置は、右憲法の規定、裁判所法三一条一項及び三一条の五に基づき、司法事務処理に関する事項として、最高裁判所規則により定められている。また、最高裁判所が司法行政事務(司法事務処理に関する事項につき最高裁判所規則を定めることも含む。)を行うのは裁判官会議の議によるものとされ、同会議は全員の裁判官でこれを組織すると規定されている(同法一二条一、二項)。したがって、最高裁判所が最高裁判所規則を制定するには、裁判官会議の議によらなければならず、同会議には最高裁判所の全裁判官が参加することが制度上予定されているのである。

他方、憲法七六条一、二項において、すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属し、特別裁判所はこれを設置することができないと規定され、最高裁判所は唯一の最終審裁判所とされているのである。

したがって、本来、最高裁判所が、最高裁判所規則を制定するとともに、これをめぐる訴訟の上告事件を担当することは、現行司法制度上予定されているというべきであり、そうであれば、同訴訟において、同規則の制定に関する裁判官会議に参加したということを理由に、同会議に参加した最高裁判所の裁判官について民訴法三七条一項に基づき忌避の申立てをすることはできないと解するのが相当である。

以上のとおり、本件忌避の申立ては理由がないから、これを却下し、申立費用は申立人らに負担させることとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官橋元四郎平 裁判官大内恒夫 裁判官四ッ谷巖 裁判官大堀誠一 裁判官味村治)

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